切り土のり面への自然植生の進入(その1) -岩盤の風化について-


切土のり面への自然植生の侵入
 切土のり面は、植物にとって極めて厳しい生育環境なので、その緑化には多くの困難を伴います。しかし緑化しない切土のり面でも、時間の経過によっては自然植生が入り、緑景観を呈している例も多くあります。
 したがって岩盤緑化技術を向上させるためには、そのような自然の植生回復状況を適切に把握することが重要ですが、これまでの事例は多くありません。
 当社ではそのための第一歩として、埼玉県秩父地方の林道沿の岩盤のり面(開設後約20年経過、地質は中古生層の堆積岩主体、周辺はスギ・ヒノキ造林地)22カ所で岩盤の状況と植生の侵入に関する調査を行いました。


調査はこのように実施しました
岩盤状況の評価
方位、勾配、岩質、風化度、地形[@凸型(散水地形)、A中間型、B凹型(集水地形)]を調査しました。
 このうち、風化度(表1)には「ハンマー打音判定」を加えることによって、植生侵入との関連がより明確になりました。

表 1 風化度の判定
風化度 ハンマー打音判定 近似する山中式硬度 近似的に対応する岩種
1:弱 金属音(キンキン) 35o以上 硬岩T・U、中硬岩
2:中 濁った金属音(カンカン) 30〜35o
3:強 鈍い音(ボクボク) 30o未満

侵入した植被の階級
のり面単位に4uのコドラートを設定し、4段階評価を行いました。(表2)

表 2 植被階級
階級 植生侵入状況
@ 裸地。
A 植生の侵入は認められるが、被度は10%未満。
B 木本、草本共に、侵入している。被度は10%〜25%。
C 木本が優先する。被度は25%以上。


岩盤状況と侵入植生状況
侵入植物種
 総出現種数は57種で、周辺造林地からのヒノキやスギが多い他、秩父地方に多いバイカツツジやマルバウツギが多く見られました。調査結果の例を図1に示します。

図1 植被階級Bの調査事例


岩盤状況と植生の侵入
 岩盤状況と植生の侵入状況の関係は表3のようになりました。全般に、ハンマー打診を中心とした風化度区分と植生侵入状況との間に強い関係があることがうかがえ、地形区分(水分環境)も重要な因子であると判断されました。

表 3 岩盤状況と植生の侵入

今後の課題
 今後はハンマー打診法の適合性をさらに確認すると共に、不陸の評価なども検討し、切土岩盤緑化技術の進展に役立てるつもりです。

出典:"切土岩盤ののり面への自然植生の侵入(その1)   −岩盤の風化について−"長谷川秀三・新井雅夫・村中重仁・千嶋崇志(ジオグリーンテック)小林達明(千葉大学)第30回日本緑化工学会研究発表(1999)
切土のり面緑化(岩盤のり面への自然植生の侵入)